教員は保険に入るべきなのか
大学を出て、一般的にはあまり金融や保険のことを考えてこなかった人も多いと思います。
教員に限ったことではないかもしれませんが、就職すると、保険会社からの勧誘や職員室でチラシが回ってきたりしますよね。
私も最初は何も経験がなく、そもそも何かした方がいいのか、保険や積立てをするなら何をすべきなのかわかりませんでした。
当時よりは少しお金のこともわかってきたので、今教員の立場なら何をするか、書いてみたいと思います。
学校で働いて出会う金融商品
金融商品は年々変化しますが、多くの先生が出会うであろう金融商品は次のようなものでしょうか。
- ジブラルタ生命
- 一般の生命保険
- 財形貯蓄
- 共済保険
- 教職員賠償保険
- 銀行への預金
ジブラルタ生命とは何なのか
私自身は教員として勤務するまで、ジブラルタ生命という単語にあまり聞き覚えがありませんでした。
ざっくり言うと、ジブラルタ生命は主に教職員に対して保険を販売している生命保険会社です。
学校で働き始めると、早い段階でジブラルタ生命の営業の方が職員室にいらっしゃって、指名されて呼び出された記憶があります。
営業自体が強引ということはなく、担当の方も感じはいいのですが、困ったのは、放課後の職員室にいらっしゃって、こちらが生徒や保護者対応が長引いてバタバタしても、その間、ずっと職員室の外の廊下で待っていただいていたことです。
営業とはそういうものかもしれませんが、こちらとしては申し訳ない気持ちになります…
私はジブラルタ生命には入らなかったのですが、職員室の中で何人かの先生は加入されているようでした。
入る、入らないというのは各自で決めることですが、新卒で教職に就いた先生方は、新学期かなり忙しいはずなので、保険のことなんて考えている余裕はないですよね。
個人的にはジブラルタ生命にかかわらず、生命保険に急いで入る必要はないと思います。入るとしたら、他社の商品との比較やNISAなど他の制度も調べて、お金のことを少しは理解してからにするべきです。
新学期のバタバタした時期に、営業の方に言われるがままに加入すると搾取される可能性が高くなるので、とりあえずやめておきましょう。(決してジブラルタ生命の商品が悪い言っている訳ではありません。)
だいたいの生命保険なんて、入りたい時に入れるものです。
私が契約したもの
私が教員を経験したのは少し前なので、いろいろな制度や商品が今とはちがう部分もあります。また、以下のことをやった方がいいとか、必ずやるべきというようにおすすめするものではありません。ご自身でいろいろ調べていただいて、本当に必要だと思えば契約すればいいと思います。
その前提を踏まえて、当時私がやっていたのは、一般財形、共済保険、民間の保険(掛け捨てと個人年金を別々の会社で)、教職員用の損害保険、つみたてNISAです。
すべてを同時にやっていたわけではありませんが、こうやって書いてみるとかなりたくさんやっていた印象です。
ただし、それぞれの用途が被らないように、用途別に最も良い商品を組み合わせるという感じでやっていました。
教職員用の損害保険
まずは仕事に関わるものですが、教職員用の損害保険に加入しました。
これはなにか訴訟が起こった時の裁判費用や、仕事での発注ミスなどで損失が生じたときにそれをカバーしてくれるというものです。
教員の他には医師など、人の命などに関わる職業の人が申し込めるものでした。(職業によって掛け金は違っていました。)
当時の同僚の先生でも、入っていない方もいました。
私が加入した理由は、①担当が実技教科のため授業中に怪我や事故が起こる可能性が僅かでも考えられること、②近隣の学校で実際に訴訟が起きていたこと、の2点からです。
加入にあたっては、多くの商品を比較検討したわけではなく、職員室に回覧にまわてくるチラシの、まあまあ王道そうなものに申し込みました。月500円くらいだったので、お守りのような気持ちだったと思います。
特に実技教科を担当する方で心配だという方は検討してもいいかもしれません。
生命保険
保険にもたくさんの種類があります。私が加入したのは、入院特約を目的に契約した掛け捨ての生命保険と、積み立ての個人年金型のものでした。親友が保険の営業をしていたので、相談に乗ってもらって他社の保険も含めて一緒に考えてくれました。
一般的な生命保険
まず、入院特約などをつけた生命保険についてですが、雑に説明すると、あらかじめ契約した条件で通院や入院をした場合に、保険料が支払われたり、死亡時に遺族に保険金が支払われるというものです。
日本では国民皆保険制度や高額療養費制度があるので、民間の保険会社の保険は、基本的には入らなくていいものだと思います。
ただし、個人的に入ってもいいかなと思うのは、若い女性と、一家の大黒柱となっている中年以降の男性です。
若い女性は乳がんや子宮頸がんに罹患する可能性が高いですが、これらの癌は、早期に発見して治療すれば治る癌になりつつあります。国の高額療養費制度があるので、治療費などを心配する必要はないかもしれませんが、もしも病気になった時、少しでも金銭的な余裕があれば精神的な負担を減らせるだろうと思い、月々の保険料と病気の時に支給される額のバランスを考えて決めました。
また、男性は中年以降でがんの罹患率が上昇しますが、ちょうどその頃に子供の教育費がかかるという方も多いので、それに備える目的で契約するというのはありだと思います。もちろん、十分な貯蓄があるという場合には必要ないです。
年金型の保険
これは働き始めて初任給をもらった後で、将来や老後のことが不安になり始めました。
簡単に言うと、ある程度の額を月々積み立てて、それを保険会社が運用して、老後などに年金としていただくというようなものです。予定利率や、途中での解約、その時の元本割れはどうなるか、など保険会社やその時の商品によって異なります。
上述した生命保険と一体になっているものもありますが、友人に相談した時に、昔はそれが良かったけれど、(その当時すでに)現在は掛け捨ての部分と積み立ての部分を分けたほうが良いとアドバイスをもらいました。
また、経済を反映して保険商品は見直されていくものなのですが、ちょうど利率が改定されて下がる前に、複数の保険会社を比較して決めました。
でも、私がもし今から先生になるとしたら、保険商品はあまり考えず、次に述べる新NISAにすると思います。
一般財形とつみたてNISA
財形とつみたてNISAは貯金のイメージで始めました。
財形は初年度からやっていて、退職した時に解約しました。財形のいいところはお給料から天引きしてくれるのでいつの間にか貯まった感覚になることです。
一方で、転職をする際には次の会社の制度によっては引き継げないことがあります。特に、公務員から民間に転職する際には、一度解約になることが多そうです。
つみたてNISAは開始から数年経って、少し一般の人にも浸透したかなという時に始めました。YouTubeなどで自分でいろいろ調べ、SBI証券の口座を開設しました。やはり、ここのハードルが1番高かったと思います。始めてしまえばその後はとりあえず放置しておけば良いので、難しいことはありません。
今、教員に戻ったとしてやるなら何をするか?
まず結論ですが、何か1つしかできないとしたら、つみたてNISAをします。金額は5千円でも1万円でも自分が余裕のある範囲でやります。
NISAとは2014年から始まった「少額投資非課税制度」で、2024年1月には新NISAとしてより充実した制度となりました。NISAにはつみたて投資枠と一般投資枠がありますが、初心者の場合は、つみたてNISAがおすすめです。理由は、ものすごく雑に言えば、初心者でも考えることが少なく楽で、比較的失敗しづらいからです。
つみたてNISAは投資信託という長期・分散投資に適した商品のみで、つまり、積み立てた後、特に何も考えずに放置しておけばOKです。
私自身は、財形もやっていましたが、もしも今、教員に戻るとしたら、財形はやらずにその分をつみたてNISAに回します。
理由は、私が期限付任用教員という立場で働き始めたので、将来の進路が不確定だったからです。財形はもしも教員という職業を離れたり、教員でも講師など異なる採用形態になったときに解約の可能性があって、手続きがめんどくさいです。一方で、つみたてNISAは個人でしているものなので、職場に縛られることなく続けられ、初めてしまえばその後の手間も少ないからです。
最も大事なこと:無理して貯金すべきではない
例えばつみたてNISAでは、年額で120万円、つまり月額10万円までの枠を積み立てることができます。
しかし、実家暮らしならともかく、特に都市部で1人暮らしをしながら教員をしている場合、初任給で10万円の余裕が出ることはないはずです。
個人的には、若いうちはお金を貯めることより、使うことに注力すべきだと思っています。
理由は以下の3つです。
- 若い時の経験や時間はその後の人生に及ぼす影響が大きい
- 若い頃は行動しやすい
- 働き始めの頃は、どんなに頑張ってもそんなにお金は貯まらない
②は人によると思いますが、①や③は少し年齢を重ねて振り返って実感することです。
例えば若くて体力があるうちに行く海外旅行と、退職後に行く海外旅行では、同じ国に行ってもまったく見える世界がちがいます。
その後の人生につながる出会いがあるかもしれないですし、いろんな価値観に触れることは自分のキャリアにとって意味があることだと思います。
海外旅行以外にも、読書をしたり、映画を見たり、何か技術や資格を身につけたり、もちろんいつから始めても遅いということはありませんが、若い時の自己投資は、実際にかかるコスト以上の価値があると思います。
また、年齢を重ねるとライフイベントとして結婚や出産を経験する人も増えてきます。結婚や出産への価値観は人それぞれですが、もしそのような選択をした場合には、物理的に自分だけに使える時間はかなり限られてきます。
若いうちが動きやすいというのは、このように自分の意思だけですぐに行動できるという身軽さのことです。
さらに、公立学校の教員の場合、残念ながら時間外手当などもほとんど無いに等しく、昇進のための試験もある程度は勤務しないと受けられないため、新卒者や数年勤務したくらいではお給料はだいたい決まっていて、それほど収入が増えるということはありません。
つまり、生活を切り詰めたり、やりたいことを我慢しても、大きな額をいきなり貯めるということはできません(実家暮らしは貯まります)。
お金はあくまでもツールであって、お金と同じくらい時間は大事です。お金は生活に必要ですし、困ったことや不便なことを解決するツールとなるので必要ではあります。
でも、お金を貯めることが目的ではないはずです。人がお金を貯めるのは、それを使ってなにかを経験するためです。
個人的には、特に先生の場合、お金を貯めることをストイックな目標にしていてはやってられない気がします。公務員は副業へのハードルが高いので、特に最初の精神的に余裕がないうちは、お金を貯める=仕事をすること、という思考になってしまい、視野が狭くなってしまうと思います。なにより、仕事が生活のすべてというような考え方は、精神衛生上良くないです。
具体的には、数ヶ月は生活できる生活防衛資金を貯めてから、あるいは並行して少しづつ、自己投資にお金を使うのがおすすめです。
そうすることで視野が広くなりますし、気分転換にもなって、結果的に仕事にも良い影響が出ると思います。
まとめ
生命保険は、基本的には不要です。でも若い女性や中年以降の男性で、日本の皆保険制度を理解した上で、それでも何かあったときの精神的なゆとりのために入っておきたいということならありだと思います。また、教員ならではですが、職業の保険も少額なのでお守りがわりに入るのは良いと思います。
そして、将来へのお金の備えとして、今から先生として働く方におすすめなのは、つみたてNISAです。
これらのお金の話は、制度の変更など、日々変化していくので、常にアンテナを張っていろいろ調べて、その時々で自分に最適なものを考えていくべきです。
教員の世界は閉鎖的で、ビジネスの視点がまったくと言っていいほどない世界です。一般の社会における常識的な感覚を失わないためにも、このような経済情報や感覚をアップデートしておくことが必要だと感じます。