東京都の期限付任用教員について
都道府県や地域によって、教員の採用システムや区分には違いがあります。
東京都の教員採用の制度の1つに、期限付任用教員というものがあります。私はこの期限付任用教員として採用され、先生のキャリアをスタートました。当時、わからないことや不安なことも多かったので、今後、同じように期限付任用の名簿に掲載されたけどよくわからないという人のお役に立てれば嬉しいです。
期限付任用教員とは何か
期限付任用教員とは、2次試験不合格者のうち成績優秀者で希望すれば名簿に搭載されるという東京都の採用形式です。厳密には違いますが、わかりやすく言えば補欠採用です。
期限付き任用の名簿に搭載されるためには、1次試験(筆記試験)には合格している必要があります。
正規合格者が辞退する、年度途中で病休に入った先生がいるなど様々な事情で、学校現場で急に欠員が出た場合などに採用されます。
私自身は、期限付きで採用されましたが、実際、2次試験の結果が出るまでこの制度のことを知りませんでした。
もし、同じような境遇で、この先の進路に悩んでいるという方のお役に立てればと思い、以下に私自身の経験を書いておきたいと思います。
期限付任用教員として仕事がきた時期
電話がかかってくる時期は、教科やおそらく居住地、採用試験の成績によって違います。
私は、4月1日に電話がかかってきました。
当時、関西在住で、しかも4月で年度も変わっていたので、仕事は来ないのかなと思って諦めていた頃に電話がきました。
当時のスケジュールを見返してみると、
- 4月1日 教育委員会から電話
- (土日を挟む)
- 4月5日 区の教育委員会で面接(配属校が決定)
- 4月6日 配属される学校で校長と面談(担任であることを伝えられる)
- 4月8日 勤務開始(担任紹介、クラスに入る)
- 4月9日 保護者会
という感じでした。
当時はあまりにバタバタしていたという記憶しかないのですが、こうやって見返してみると、ぼーっと過ごしていた1週間後には40人クラスの担任をしているなんてすごいですね。
私以外にも、同じ市区町村に期限付任用の同期がいました。それぞれ仕事がきた時期は様々ですが、私の知っている範囲では
- 3月までには採用が決まり、配属される学校にも顔を出し、新学期の準備なども少し手伝った
- 4月になってから連絡がきた(私と同じパターン)
- 夏休み前後など、4月以降のその他の時期(バラバラ)
仕事内容
こうして4月になってから呼ばれたわけですが、そこで任された仕事内容は、以下のようなものです。
- 中学2年のクラス担任
- 教科の授業
- 分掌:進路指導部
- 部活動:吹奏楽部(副顧問)
4月に入って電話がかかってきた当時は、まさかクラス担任をするとは思っていませんでした。
先生たちの業務のスケジュールを詳しく知っていたわけではありませんが、4月にはクラス替えや担任は決まってものだと思っていましたし、どんな人かわからない(しかも正規採用ではない人ということは決まっている)人に、担任を任せるはずないと思っていました。
そもそも、勤務開始よりも前に子どもたちは始業式が始まっていて、クラスの発表や担任の決定も終わっています。私が担任したクラスは、担任未定(不在)として発表していたそうです。現在では教員不足で珍しくないかもしれませんが、保護者の立場なら不安になるだろうと思います。
ここまで読むと、初任の人に担任を任せるなんて、教職員の雰囲気が悪い学校だったのかと思うかもしれません。でも、私が着任した学校の管理職含め、周りの先生方はとても良い方たちで、本当に助けられました。
校長先生の方針で、若い人に積極的に担任を経験してもらって、ベテランの先生が副担としてバックアップに入るという体制がとてもしっかりしていました。初めてで怖いもの知らずというのもありますが、かなり伸び伸び仕事ができたと思います。
ちなみに、着任して次の日に保護者会だったのですが、そもそも保護者よりも学校のことを知らないし、クラスの方針などもほとんどなかったので、担任の年度当初の挨拶は、かなり手短に終わりました。というより、そういうものだと思っていたら、終わって職員室に帰る途中で、様子を見にきてくれた副担の先生と出くわしました。
期限付任用教員採用の際の面接について
さて、上記のように私は4月1日に電話がかかってきたのですが、4月5日に採用される区の区役所で面接を行いました。
当日は午前中に集合でした。区役所に行ってみると、私以外にも10名弱くらい、期限付き採用の候補者がいました。同じ教科で複数名の候補者がいる場合と、候補者が1人しかいない場合がありました。
面接の内容は、おそらく教員採用試験の2次試験で行われるようなものと似ていて、「自分がまったく知らないスポーツの運動部の顧問を任されたらどうしますか?」など、教員の面接としては一般的なものでした。
一般の採用試験と違うところは、都の教育委員会ではなく、市区町村の教育委員会から直接電話が来たので、合格すればどの市区町村での採用になるか決まっているという点です。
合否の発表は、午後、区役所にて掲示されるとのことで、中途半端に時間が空きました。私の教科は自分1人だけだったので、他教科で1人だった方と区役所の近所で食事をしました。
午後、区役所に戻って時間になると、紙で掲示板に合格者が掲示されました。
結果から言うと私は合格でしたが、不合格だった方もいらっしゃいました。
私は、期限付き採用は、電話がかかってきた時点でほぼ採用が決定しているものと思っていました。
しかし、教科によっては、1名採用の枠に2名呼ばれていた科目があるようでした。体育など採用試験でも倍率の高い科目において、複数の候補者がいたようでした。
私の想像ですが、期限付き採用の名簿にも、現在の教員不足に対しては十分な人数が掲載されているわけではないのではないかと思います。
期限付任用教員と正規採用のちがい
一度採用されると、基本的には一般の合格者と同じ業務内容です。担任を持つこともありますし、教科の仕事や部活動の担当など、様々なことをこなさなければなりません。
ただし、細かな違いはいくつかあったので、それをまとめておきたいと思います。
最初の給与と賞与(ボーナス)の額
違いの中でも、最も気になったのは、給与と賞与の違いです。前述のように、私の採用は4月に入ってからだったこともあり、1週間ほどの勤務日数の差で、給与と賞与の額が正規採用の方と比べて少なくなりました。
具体的には、給与はそれほど違わなかったのですが、賞与はほとんど半分になっており、母数の額が大きい分、ダメージが大きかったです。
しかも、私よりも早く3月に電話がかかってきて、3月中から事前に学校に出向いて学年の準備などを手伝っていたという人でも、正式には(書類上は)4月以降の採用となったことで、同じようにボーナスを半額とされていた場合もありました。
私のように1週間勤務日数が少ないというような場合は仕方ないかもしれませんが、同じように仕事をしていてボーナス半額は、なかなか納得できない制度です。こういうブラックなところが改善されないと、期限付教員になるくらいなら他の職業を選択するという人が増え、ますます教員不足に拍車がかかりそうです。
初期研修の内容
おそらくどの自治体でも、新規採用者に対して初期研修を行なっています。
内容は自治体によって多少異なるかもしれませんが、私の採用された区では、研修会場へ出向いて受ける座学の研修、自校で模擬授業などを行う研修、そして夏に宿泊研修がありました。
このうち、正規採用と期限付き採用で違いがあったのは、宿泊研修です。
宿泊研修は、本来、初任者同士が知り合って親睦を深め、横のつながりを作るという目的があるように思います。都外にある区の施設で行われ、オリエンテーリングなどもありました。もちろん、課題が与えられてそれに対するプレゼンを行う、というような研修らしい研修もあります。
正規採用の場合、夏休みなので比較的初めの頃にこの研修があるのですが、期限付き採用の場合、この宿泊研修のみ行わず、次年度に合格したら参加するということになっていました。
これは露骨に経費削減のためという感じがします。期限付任用教員の場合、来年度は不採用という可能性があるからです。
ですが、これは悪い面ばかりではありません。
初任者研修は、ディスカッションのためなどでグループ分けされていたのですが、期限付の採用者は、まとまって同じグループでした。また、2年間同じメンバーでした。このため顔を合わせる機会が多く、2年目に行われる宿泊研修の頃にはグループの皆が既に顔見知りとなっていて、非常に楽しかったのを覚えています。
次年度の採用試験の受験区分
期限付き任用教員の任期は年度末までです。もし来年も教員を続けたい場合、採用試験の受験区分が一般とは異なり、面接だけとなります。
ここで、注意なのが、申し込む際に、自分で区分を選択しなければならないということです。
現実的に、フルタイムで教員の仕事をしていれば、筆記試験の勉強をする余裕はあまりないので、これは良いことだと思います。
また、受験者が行うのは面接だけですが、選考の材料は、期限付きとして勤務している学校の校長からの評価もあります。
そのため、採用試験直前に何か準備するということはあまりありませんでしたが、
採用後、仕事を始めるまでにしたこと
私の場合、かなり急に仕事が決まったことと、4月当初には関西に住んでいたこともあり、とにかく自分の暮らしを整えることで精一杯でした。具体的には、新しい家を決めることと、これまでの家を引っ越す手続きです。
新しい家を探し、契約する
私は最初に勤務地が決まった日に不動産屋に行き、2〜3個の候補の中から内見してその日のうちに決めました。
特に、私が失敗した点は、学校の近くに家を借りてしまったために、休日でも生徒やその保護者に会ってしまう可能性があり、プライベートでもリラックスできなかったことです。
これは家を借りるとき、区が違うことや学区外であることは不動産屋に確認したのですが、ほぼ区界で、マンションの前の道を越えると学区になってしまうという絶妙な立地でした。
結果的に2年弱でまた引っ越してしまいました。
私は、勤務地が決まって3日後には勤務だったので、このように急に決めましたが、本来なら場所のリサーチなどを行なってもう少し検討すべきです。
これは期限付任用教員という制度の弊害の1つと言えます。
また、家を借りてもすぐに入居というわけにはいきません。即入居可能の物件でも、手続きなどで少なくとも2週間くらいはかかります。
幸いだったのは、妹が東京に住んでいたので、最初の1ヶ月ほど居候させてもらえたことです。
これまでの家からの引越しの準備
関西から関東など、都道府県を跨ぐような引越しは、当然3日ではできません。
引越し業者に見積もりに来てもらうことから始め、関東と関西を行き来して荷造りをするには、かなりの体力を使いました。
結果的には週末に何度か関西に行って箱詰めなどの準備をしました。
移動と引越し作業により体力を持っていかれ、そもそも平日は新社会人として初めての仕事をしていたので、肉体的にかなり消耗していました。今考えてもその時の状況ってすごいなと思います。
また、関西関東の往復は、経済的にもダメージでした。
担任業務などは周りの先生方に助けていただいた
年度当初、担任がやるべきことはたくさんあります。ただしこれらは、担任の経験があれば使いまわせることや、本来なら前年度や春休み中にできることも多いです。
学級経営案の提出、座席表作り、掲示物の作成、など多くは事務作業なのですが、新卒で教員になった場合、それなに?みたいなわからないものがあるのも普通だと思います。
私は教員免許を取った後で、教育学ではない人文系の大学院に行っていたため、教育のことなんてほとんど忘れていました。
学級経営案ってなに?という感じでしたが、周りの先生方数人が、学級経営案を参考にしてねとそのままくれました。それほど難しい書類ではないので、数人の先生方のものを読むとささっと作ることができました。
さらに、座席表のエクセルシートや、しばらく担任からは離れているベテランの先生から教室の掲示物などもそのままいただきました。これにより、まったくと言っていいほど準備の時間は取れませんでしたが、なんとか形は整えることができました。
期限付任用教員となったら考えること
私は、教員採用試験を受けた時、大学に残って博士課程に進むか悩んでいました。そのため期限付任用教員の仕事が来るまで特に仕事を決めず、大学に顔を出しつつアルバイトをしていました。
でも、世間一般的には多くの人が就職活動をしたり、公務員試験を受けたりして就職していきます。私のように年度末を迎えてものんびりしている人の方が珍しいです。
私自身が期限付き任用教員とその後の正規採用での勤務経験から、もしまた期限付任用教員の名簿に搭載され、でも仕事はすぐには来ていない、という立場になったらどうするか、考えてみたいと思います。
仕事が来ない可能性も考える
期限付任用教員の名簿に搭載されたからといって、必ず仕事が確約されているわけではありません。
私の知っている範囲では、体育の先生で期限付の名簿に搭載された方で、結局1年間仕事が来なかったというのも聞きました。
特に倍率が高い教科では、仕事が来ない可能性も考えておく必要があります。
また、名簿搭載の順位によっては、半年間は何も連絡がなくて、突然電話がかかってくるということもあり得ます。
私が受験した家庭科は、採用人数が5教科の先生方と比べると少ないです。一方で、女性が多い教科なので、産休を取得される先生も多いかもしれません。期限付の身分で仕事が来るかは微妙な感じだと判断しました。
このように、まずは1年間、仕事が来るか来ないかわからない不安定な状況になる可能性であることを考えます。
他にやりたい仕事はないか考える
1年間無職の可能性を考えたとき、あくまで仮定でしかありませんが、今の私ならおそらく他にやりたいことを探してやると思います。一般企業で内定をもらっていてやりたい仕事であれば、まずはそこで働くでしょうし、今はフリーでできる仕事もあります。
また、民間企業を経験してから教員に転職することも可能です。教員の世界はとても閉鎖的なので、外の世界を知っておくことは、広い視野をもった人間になれるという点で良いことだと思います。
教員がやりたいなら講師の仕事を探し、選ぶ
どうしても教員の仕事をしたいという場合には、産休代替などの常勤講師や臨時的任用教員、または働きたい学校や地域で時間講師を探します。
現在、教員の仕事はかなりの売り手市場であるため、おそらく講師の仕事はいろいろな条件のものが複数見つかると思います。それらの中でより条件の良いものや、自分の条件に合うものを選びます。
例えば、来年度、また一般の枠で教員採用試験を受けるために勉強時間を確保したいなら時間講師を選んだり、より落ち着いた学校を選ぶ、または臨時的任用教員のように正規採用の先生と同じ仕事を希望する、などが考えられます。
とにかく、期限付きで声をかけてもらった時にすぐに対応しなければいけないという考えをする必要はないと感じます。
期限付任用教員は残酷な制度?
上記のように、期限付任用の名簿に掲載された場合、そのことに気持ちが拘束される必要はないです。
理由の1つに、期限付任用教員の制度は、残酷な側面があるからです。
現在、期限付任用教員という制度を設けているものの、あまりの教員不足により、教科によっては期限付任用教員を全員採用してもさらに不足して講師も見つからないという話を聞きます。
実際、私が勤務していた学校でも、英語科の先生が4月になっても見つからず、欠員のままスタートしたことがあります。この時は、期限付任用教員も講師登録をしている人も出払ってしまっており、校長や副校長が自ら教員免許の取れる全国の大学に電話したりしていました。
それならば、そもそも募集人数や合格者を増やせばよいのではと思いますよね。
でもなぜそうならないか?
教育委員会の真意はわかりませんが、噂では、期限付任用教員の枠は、採用試験の倍率を高く見せるために重要と聞きます。
期限付任用教員は、仕事がくれば、正規採用の人と仕事内容は同じです。しかし、期限付任用教員はあくまで教員採用試験の「不合格者」という内訳になるのです。
実際は、受験者のほとんどの割合を採用、つまり倍率は1.0倍に近いのに、期限付任用教員がいることで、正規採用の枠は狭まるので、労働力は確保しつつも倍率を少し上げることが可能なのです。これが本当なら残酷な話ですよね。
まとめ:期限付任用教員となった人へ
もし、期限付任用教員として仕事がきた場合、将来的に正規採用への道が大きく開かれます。しかし、どの段階で仕事がくるかは人それぞれですし、そもそも仕事がこない可能性もあります。
あくまで1つの意見ですが、現在の教員を取り巻く環境を考えたとき、期限付任用教員の立場にこだわることはないように思います。
主な理由は以下の2つです。
- 進路を自分で決められるならその方が精神的によいから
- 人生において受け身になるより自分で選択する方が良いから
教員の仕事は、子どもの人生に関わるとてもやりがいのあるものですが、一方で、雇用者という立場では、多数のコマの1つでしかありません。つまり、替えのコマがたくさんあるわけです。
このような状況の場合、やはり自分の人生にとって何が重要か考えるべきですし、その信念に沿った選択を自分からしていくべきです。悩んだ結果が教師という仕事でも、それ以外の仕事でも、社会に関わるという点では同じです。
以上、期限付任用教員になって、不安を抱えている方の参考になれば幸いです。